2012年2月9日木曜日

ユークリッド

ユークリッド(紀元前300年頃~紀元前275年頃)

ユークリッド(エウクレイデス)は古代ギリシャの幾何学者です。非常に有名な数学者ですが、その生涯についてはほとんど分かっていません。ユークリッドは当時知られていた数学の知識をまとめあげ整理し、「原論」という全13巻の書物に著しました。この「原論」は、数学史上で最も重要な著作物の一つであるとされています。

エジプトのプトレマイオス一世は学問を重要視し、首都アレクサンドリアを世界の学問の中心とするために様々な方策を打ちました。新しく大学を設立したこともその一つですが、この時に招かれた学者のうちの一人がユークリッドでした。ユークリッドはアレクサンドリアの地で数学を教える傍ら、研究を続けていくことになります。
プトレマイオスはユークリッドから幾何学を学んでいましたが、ある日「もっと簡単に幾何学を学ぶ近道はないのか」と聞いたところ、ユークリッドは「幾何学に王道なし」と答えたという逸話があります。


■世界一有名な教科書「原論」

ユークリッドは当時知られていた幾何学上の事実を、5つずつの公理と公準から演繹される定理の集合として体系化しました。これを書物としてまとめたものが「原論」で、数学史上最も重要な著作の1つとされています。それだけではなくこの「原論」は、様々な国の言語に翻訳・出版され世界に広まり、聖書に次ぐベストセラーと言われています。

「原論」はこれ以後二千年以上も、教科書として使われることになります。「原論」は幾何学的なことだけでなく、哲学や論理学の内容も含んでいたため、世に広く受け入れられることになりました。
「原論」でまとめられた幾何学体系は、今日では「ユークリッド幾何学」と呼ばれています。
この功績により、ユークリッドは「幾何学の父」と呼ばれています。


■「原論」の23の定義、5つの公理、5つの公準

「原論」の第1巻のはじめには、23の定義、5つの公理、5つの公準が掲げられています。
定義は「1.点とは部分をもたないものである」からはじまり、「23.同一の平面上にあり両側へどれだけ延長しても交わらない2直線は平行線と呼ばれる」まで があります。
公理と公準は次のようになっています。

公理1
同じものに等しいものは、互いに等しい
公理2
等しいものに等しいものを加えると、その和もまた等しくなる
公理3
等しいものから等しいものを引くと、その差もまた等しくなる
公理4
互いに一致するものは互いに等しい
公理5
全体は部分よりも大きい

公準1
任意の点から他の任意の点へ、ただ一本の直線を引くことができる
(どの点からどの点へも直線が引くことができる)
公準2
有限の線分は、これが直線となるように連続的に延長することができる
(直線はどこまでものばすことができる)
公準3
任意の点を中心とし、任意の長さを半径として一つの円を描くことができる
(点と半径が決まれば円がかける)
公準4
全ての直角は互いに等しい
公準5
一本の直線が他の二直線と交わり、同じ側にある内角の和が二直角より小さい場合は、これらの二直線を限りなく延長すれば内角の和が二直角よりも小さい側で交わる

ユークリッドの5つの公準のうち、最初の4つはとても分かりやすいものになっています。しかし第5公準だけは分かりにくく、公理や他の4つの公準を用いて証明できるのではないかといった見方も出てきました。
しかしユークリッド以後二千年余りが経っても第五公準の証明はできず、19世紀にロシアの数学者・ニコライ・イワノビッチ・ロバチェフスキーが新たな見方(「非ユークリッド幾何学」と呼ばれることになります)を提案するまで時を待つこととなります。


★ユークリッドに関する雑学

・「原論」の写本

エジプトのオクシリンコス遺跡からは歴史的に重要なギリシャの文書が多く発見されましたが、その中にはユークリッドの「原論」の写本もありました。これは現存する最古のものとなっています。

・「アテナイの学童」

ルネサンス期にイタリアの画家ラファエロ・サンティが描いた有名な絵画に、「アテナイの学堂」というものがあります。この絵には有名な古代ギリシアの哲学者たちが描かれているのですが、その中の一人がユークリッドであるといわれています。
絵画の右下に数人の人物がおり、その中に右手にコンパスのようなものを持ち床に置かれた板にかがんで図形を書いているように見える人物がいるのですが、それがユークリッドであるとされています。ただしこれはアルキメデスである、とする説もあります。