タレス(紀元前624年頃~前546年頃)
タレスは「最初の哲学者」と呼ばれ、数学者としてよりも哲学者として有名です。タレスの数学的功績としては、エジプトの測地術を幾何学という学問に高め人々に広めたことや、演繹的手法と呼ばれる考え方を取り入れたことが挙げられるでしょう。
■幾何学への貢献
タレスはギリシアにあるミレトスという都市国家に生まれました。ミレトスというのは現在のトルコ西岸、エーゲ海に面した場所にあります。彼は若い頃にバビロニアで天文学を、エジプトで幾何学を学んだといわれています。
エジプトではナイル川が毎年のように氾濫していましたが、氾濫する時期を予測するために天文学が発達していました。また氾濫が収まった後には農地を元通りに分配し直さないといけません。そのために土地の測量技術が発達していましたが、タレスはその測量術を応用して様々な幾何学的手法を発見していきました。
例えば自分の影の長さと身長とを対比させて、ピラミッドの影の長さからピラミッドの高さを求める方法を考えたのもタレスです。このように、タレスはエジプトの測量術を幾何学という普遍的学問としての域にまで高めたとされています。
またミレトスへと帰った後は天文学や幾何学について学んだ知識をミレトスの人達に話して聞かせましたが、学んだことをそのまま伝えるだけではありませんでした。学んだことを自分でも工夫をして発展させ、役に立つ様々な新しい方法を考え出したのです。
タレスが証明した幾何学的な定理としては「直径に対する円周角は直角である」というものがあり、これは「タレスの定理」と呼ばれています。タレス自身が円周上の点と円の中心を結び、2つの二等辺三角形を作ってこの定理を証明したためにタレスの名がつけられたのですが、タレスの定理と呼ばれるものはこの他にも全部で5つあります。
■「万物は水である」―観察による法則の発見―
当時の人達の間では、世界を構成する物は「神」が作ったものだと考えていました。
しかしタレスはエジプトを訪れた時にナイル川が氾濫し、陸地が水におおわれ、水が引いていくとその跡に新しい土が堆積しているのを見て、「陸は水が作ったものだ」と考えるようになったのです。更には海や陸からの水蒸気が空に上り、それが雨となりまた地上に降ってくるということから、「空も水で作られている」、「全宇宙は水から成っている」と考えるようになりました。「万物は水である」というのはタレスの有名な言葉です。
このように「神話的思考」から脱却し、ある事象を観察し自然法則を導くという「自然科学的方法」を初めて体現したのがタレスであると言われています。
■演繹的思考法
数学的な議論をするには、「既に知られ認められている知識から出発して、筋道の通った論理を積み重ね、最後の結論を導く」という演繹的手法を身につけていることが大切になります。このような演繹的手法を考案したのもタレスであると考えられています。
タレスは演繹的思考法を用いて、「二等辺三角形の二つの底角は等しい」といった幾何学の定理をいくつか導いたとされています。
この演繹的思考法はギリシアの数学者ピタゴラスやユークリッドに受け継がれ、数学の発展に大いに貢献していくことになります。
★タレスに関する雑学
・静電気の発見
タレスの生きた古代ギリシャの時代では、人々は琥珀を用いて作ったアクセサリーをお洒落の一つとして身につけていました。しかしこの琥珀はすぐに埃がついてしまい、その埃を落とすために擦ると余計に埃がついてしまいます。これは静電気によるためだったのですが、当時は静電気の性質については知られていませんでした。
ここで不思議に思ったタレスは色々な実験をして、琥珀を擦ると物を引き寄せる力が発生することを突き止めたのです。この静電気の性質が初めて記録されたものが、タレスによるものとなっています。
しかしタレスは琥珀を擦って発生する力は磁力と同じものだと考えており、電気現象と磁気現象が区別されるのは16世紀のジェロラモ・カルダーノを待つこととなります。
★タレスに関する備考
生没年:紀元前624年頃~前546年頃
生まれ:ミレトス(現在のトルコ西岸)
父:エクサミュアス
母:クレオブゥリネ